20才のシュトラウスとブラームス

 昨日、久しぶりにCDでR.シュトラウスのピアノ四重奏を聴いたのだが、あまりにすばらしく、You tubeで探し当てたので紹介したい。ブラームスの影響を受けた作品だが、ブラームス流の憧憬の曲調に、さらにシュトラウスの輝き、若さ(1885年、20歳当時の作品である)が加わった、かつ、古典的な風格も漂う、堂々たる名曲だと思う。全曲演奏するには約40分かかる。その中でも、特に、第3楽章の緩徐楽章は傑作である。若き日の、非常に晴れやかな将来への希望、愛が、切ないほどに感じられる。こいういう情感は、音楽でなければ、とても、とても表現できない。言葉や映像では、とても及ばない。


第3楽章
http://www.youtube.com/watch?v=EoWBEvyCKiQ



 若きR.シュトラウスの憧憬と輝きを、さらにブラームスにさかのぼると、ピアノソナタ第3番2楽章になる。同じく、作曲当時、弱冠20歳のブラームスのその後の生涯を左右してしまうことになった人妻クララ・シューマンへの本格的な愛が、ここに表現されている。ブラームスと対立していた同時代人ワーグナーは、この楽章は絶賛していたとどこかで読んだ覚えがある。その元情報をCDのライナーノートで探してもみつからなくて申し訳ないが、検索してみると、ワーグナーがここの旋律を「マイスタージンガー」で流用したということがあるようだ。
 2楽章終末部には、トリスタンとイゾルデの最後の愛と死を彷彿とさせる曲想が展開されるが、運命的な満たされぬ愛という同じ主題を、若きブラームスは、より切ないけど健康的な形で、神話ではなく日常の中で解決する。それが、新しい時代の市民芸術家として、慎ましく生きていった、ブラームスの素晴らしさでもあると思う。



1.Annie Fischer plays Brahms Sonata in F minor Op.5 (2/4)
  http://www.youtube.com/watch?v=Rdp0aEJ1BCE
2.Annie Fischer plays Brahms Sonata in F minor Op.5 (3/4) .
  http://www.youtube.com/watch?v=memaD5dBu1U
  (3分40秒ぐらいまで2楽章が続いている。古い録音だが、文句なしの完璧な演奏だ。
   ブラームスも泣いて喜ぶだろう。)

「黄昏がせまり 月が輝く
 愛し合う2人の心が結ばれ たがいに寄り添い 抱き合う」
 若きブラームス自身が、シュルテナウの詩を「若き恋」の一節を書き添えている。第3番は、シューマンに才能を見出された若きブラームスが、1853年の秋から冬にかけて、シューマン家に滞在しているときに完成した。妻クララが、第2、3楽章を公開初演している。いかなる気持ちで、面持ちで、ブラームスは、クララの弾く自作曲を聴いたことだろうか?



【参考引用】
「みどりのこびとちゃんのクラシック音楽日記」というブログに突撃コメント投稿した約1年半前の今仁喜美子ピアノリサイタルの鑑賞記。この曲は、全体的には男性的で武骨さのある大曲ではあるが、歴史的経緯から、やはり、女性がこの曲を弾くと、替えがたい味わいがある。全曲弾ききるには、結構なエネルギーがいるだろう。


 昨晩(2012年2月のこと)、ブラームスピアノソナタ第3番を、生で聴く機会を得た。たぶん、一生に一回きけるかどうかの曲だとおもったので、仕事の都合をつけて、時間をつくって行った。
 浜松のアクトシティ、今仁喜美子さんの演奏だった。40分強の曲が、夢のように、過ぎ去ってゆく、普通のピアノ音楽を聴くのとは、別種の時間の過ぎ去り方で、特に第2楽章と第4楽章の対比には、オペラ、楽劇をみているような印象を受けた。それも、オペラや楽劇、さらには、映画などの視覚に訴える芸術では、決して表現できないような、女性の愛と運命の内面というものを、非常に高次の段階で芸術として表現してくれていたと思う。
 ワーグナーが、この第2楽章を褒め称えたという話があるが、この若いブラームスの音楽は、ワーグナートリスタンとイゾルデよりも、より現実的で、さらには、高いところで昇華させているものだと、今仁さんの演奏で感じた。3.11後の日本で、命の力づよさを伝えたいというお話だったが、本当に真摯な男女の交わりのなかで、命が宿る瞬間を、この楽章は描いている。その表現は、猥褻とか、エロチックとか、性愛とか、あるいは、オーガニズムとか、そいう表面的、機械的、生物学的な言葉を使うと陳腐すぎて、的外れになるが、そういうものではなくて、その奥にある涙のでるような心的実体を表現している。それは、なにか、力強く、前にすすむような力であり、性愛の中にあり、性愛をこえた力である。そして、それは、特別なものではなく、いつも、真摯な男女関係があれば、そこ、ここにあるものである。
 ワーグナーは、ブラームスのようには、これを純粋、素朴な形で、表現できなかったのかもしれない。今仁さんの人柄と、人生経験、それから、身体性があってこその、昨晩の名演だった。


ブラームスに思いを寄せるエレーヌ・グリモーの演奏が、ニコニコ動画であるが、会員でないと入れない。
1、2楽章
http://www.nicovideo.jp/watch/sm14288621