混沌をぬけだす武器としてのcoherence

 GEAB/Europe2020は、2006年3月より、イランをはじめに石油の売買でドルが使われなくなる動きが加速することで、ドルの基軸通貨としての価値が失われてゆき、戦後秩序が崩壊するだろうと予測し始めたフランスのシンクタンクである。いわゆるリーマンショックを的確に予測はしたが、その後は、彼らの予測に反して、ドル基軸通貨性と、パクス・アメリカーナは、しぶとく、屑債権の米連銀による公的買取、オバマ大統領による、イラク侵攻と強欲資本主義からの米国の刷新への期待から、かろうじて生きながらえてきている。しかし、ここにきて、米国の始めたイラク戦争が生んだ、癒しがたいイスラム国によるテロの多発や、さらに、中国が設立するアジアインフラ投資銀行へ、米国のけん制を受けながらも、英国が参加を決めたのを皮切りに、ドイツ、フランス、イタリア、スイスと、EU各国が雪崩を打つように参加表明しはじめた。ドル基軸通貨性についての、大きな打撃になるだろうなと思い、毎週送られてきているGEAB/Europe2020のメルマガを、辞書を引き引き読んでみた。
  
 有料の本体部分の公開はなく、内容は今一つ具体性には欠いているが、今の状況を、「ギャップに生じたカオス」とのべ、2015年を、「怪物的なオーバーラップ」であろうとしているのは、さすがいい表現を使うと思った。ドル基軸通貨性(過去)と、その後の世界(内発的に存在している未来)とのオーバーラップが、あたかも、人の顔と瓶が両方みえるような騙し絵のように、現出してくるだろうということである。それに触発され、日本にとっては、劣化した靖国神道的な動因と、靖国を乗り越えてある「その後の世界」の物語というものまで、考えが及び、ツイートをした。なにか意味もあろうかと思うので、ブログに残しておきたい。


1.世界情勢について

【GEAB】2015 – Media, finance, oil system, military-industrial complex, QE : the narratives war
http://geab.eu/en/2015-media-finance-oil-system-military-industrial-complex-qe-the-narratives-war-2/


“2015 would be characterized by a "monstrous overlap” between the world before and the world afterwards, where two worlds appear to be equal”
この文の認識が、中心かと思う。さらに、GEABは、メディアの変容、とくに、インターネットの普及が、いまのカオティックな状態から、どんな方向に向かうのか、無視できない要因となるとといている。「私はシャルリ」「イラクアルカイダ」も2003年、FOXニュース隆盛の当時ほどは、新たには説明原理、ナラティブとして成り立たないだろう。

 この“monstrous overlap”を私は、パクスアメリカーナの世界と、その後の世界/テロとの戦争と背後にある陰謀策謀の世界と、EU諸国がパレスチナを国家として承認し国際刑事裁判所が、イスラエル戦争犯罪を訴追しようとするようなの動きの世界/帝国の論理に従属する世界と、民族自決や世界人権宣言を守る(死守する)世界とみる。
沖縄をみても、明らかすぎるほど明らかだが、今、日本でも、これは否応なしに巻き込まれている。メディアが、どのレベルの歴史的事実にフォーカスするか、そこから、どんな価値に意味をみいだし、紡いでゆくのか、そして、決意してナラティブを紡げるか、それが、“monstrous overlap”後の未来を決してゆくのだろう。短期的には、the strongestなものが制してゆくかもしれないが、長期的には、most coherentなものが勝って行く。


米国的帝国に反する情報の例
【日刊IWJ】マスコミでは意図的に切り貼りされ真意が伝わらない鳩山氏の主張。だからこそ、前回のインタビューでは「IWJならば」と許諾。今回も同様に、切り貼りすることなく大手メディアのように悪意を持って、恣意的に編集することなく、一人の鳩山由紀夫という政治人の言葉をしっかり伝えます。昨日のガイドでもお知らせいたしましたが、岩上安身のインタビュー復帰第一弾として、鳩山由紀夫元首相に2時間たっぷりとお話を聞きます。時間は23日18時から。チャンネルは1です。


2015/03/23 米国に”依存し過ぎている”日本の現実〜ウクライナ危機、辺野古新基地建設、北方領土、TPP…クリミアを電撃訪問した鳩山由紀夫元総理に岩上安身が聞く
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/240251




イスラエル的帝国に反する情報の例
【メルマガ・パレスチナ最新情報より】
ネタニヤフ首相は選挙間際に「パレスチナ国家は絶対に認めない」と強硬、支持者に「アラブが大挙して投票に来る。負けずに投票所に足を運んで欲しい」と露骨な人種主義的発言。米大統領候補が「黒人が大挙して投票所に来る。白人の皆さん、ぜひ投票して私を当選させてくれ」と言ったらどうなるでしょう。


EU報告書、イスラエルへの厳しい措置を勧告
Guardianが入手した、EUのレポートは、イスラエルの計画的な入植活動続行による「暴力の悪循環」がエルサレムの緊張を沸点に近づけ、二国解決の実現可能性を脅かしていると警告している。レポートは、エルサレムにあるEU総領事などが毎年合同でまとめているもの。
2014年の報告書は、過激な入植者と入植地産品への懲罰的措置を求めるもので、具体的には(1)暴力的な入植者に対するEU諸国の出入国管理を強化する(2)EUの規定に合わせて、消費者向けに、入植地産品の表示を徹底させる(3)ヨーロッパの企業、旅行業者に対し、入植地でのビジネスのリスクを警告する——ことなどを勧告している。(元記事 3/20 Guardian)


【アル・ジスル−日本とパレスチナを結ぶ 編集人:奈良本英佑】*当協会ではパレスチナ最新情報をメールマガジンでお送りしています(無料)。     
http://www7b.biglobe.ne.jp/~jsr/


 ネタニヤフ発言は、テロとの戦いを超えた、あからさまなレイシズムに近づいている。側近の「テロリストを孕む女性からなくさなくてはいけない」という言葉もあったが、それが、民主主義の名のもとに、正当化されてゆく。かなり飛躍するが、ユダヤ教徒がキリストを殺したことを、イスラエルパレスチナ問題から思う。歴史的なイエスは、パレスチナ人のような風貌であったと、どこかで聞いたことがあった。


 原事実と、マスメディアで報道される情報との間の壁、その事実の起きた地域の言語と、報道される情報が流通する地域の言語との壁、そういう壁がある。伝わるべきことが伝わらず、あるいは歪曲される余地がある。ネットはこの壁を少しは薄くはしたが、まだまだ厚い。これに依存した帝国というのは暴力に依存することになる。しかし、ネットの存在は、情報の抑圧によるstrongestな勢力ではなく、一貫性をもったcoherentな勢力の巻き返しの可能性を感じさせる。


 テロとの戦争でも、ウクライナ問題でのロシアの対応もそうだが、ファーストインパクトというのが、報道の中で失われていきやすい。実は、親の虐待というのも同じようなものだ。それを報道、報告、告発する立場にあるものが、比較的弱者であり、言語的な壁があれば、認識されなくなる。その後の暴発だけが、大きく報道され、認知されることとなり、ファーストインパクトをもたらした者が、被害妄想的な加害者となって、さらなる攻撃がなされてゆく。


 しかし、インターネットの普及により、そのファーストインパクトが、どの程度報道されるかどうかは別にして、ありありと記録されるようになった。ウクライナ問題でいえば、非暴力的なデモを暴力化した際の、反政府派、政府派双方にたいする無差別銃撃、殺害を行ったものが、どのような勢力で、誰に支援されていたのか(鳩山氏によると、米国のネオコンに支援されていたウクライナのネオナチ勢力)、また、その後のデモの暴力化(マケインがキエフにのりこみ、自由のために戦えと扇動していた)による政権転覆後、組閣は、誰の指示によってなされたのか(Youtubeにヌーランドの指示電話が暴露流出されている)、さらに、反ユダヤ、反ロシア的なオデッサの虐殺について(下記IWJ記事参照)。旧日本軍のやったことに合わせれば、満州事変とその後の侵攻、満州国の設立、南京虐殺などに相当するだろうが、それが、リアルタイムで表にでるようになっている。この散り散りになりがちな、報道されない事象を、歴史として編みこむことで、coherentなナラティブが、初めて可能となり、strongな勢力の横暴への抵抗が可能となる。


【IWJ参考記事】
岩上安身の「ニュースのトリセツ」全文掲載
オデッサの「惨劇」、緊迫続くウクライナ東部 米国はウクライナを「戦場」にするのか(IWJウィークリー48号より)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/138337


 帝国の原理ではなく、人権原理を生きるというのは、ある意味、克己であろう。strongestの立場に立つことではなく、most coherentの立場を探しに探し、そちらを築くことを意味するが、大きく言えば、それは、キリストのような立場に、新約の立場に立つことを意味する。その危険と困難も含めてであるが。私はクリスチャンではないが、結局は、その辺の問いに収束するような気がしている。その立場の根拠があるヨーロッパは恵まれている。極右的政治勢力的な意味であるが、旧約の世界のイスラエル国家神道の日本は、後進国である。



2.日本における“monstrous overlap” ―― 劣化した靖国神道的帝国的要因と、日本国憲法から発展する要因のoverlap  国を守る自衛隊員の慰霊の在り方、場所から日本における“monstrous overlap”と、そこから反照される国家像を考える


 本来のキリスト教では、イエスキリストを信じ、よきサマリア人のような隣人愛に生きるような人間であれば、神の国に生きれますよということだが、平田篤胤はこの部分を神道にとりいれ幽界を作り、それが国家神道に利用されて靖国的幽界になっていった。隣人愛による神の国から、天皇愛による神の国への変化だ。私のアイディア(下記リンク参照)は、敗戦後の、人間宣言した天皇という歴史を踏まえ、その天皇愛的な日本人の情緒を、同胞愛に、人間愛に、権利としては人権尊重にもってゆくことである。それを受けて、靖国神社ではない、なんらかの戦死者慰霊施設が必要になる。守るものも、そういった普遍に通じる「人間性」だ。これは、平田の構想し、大村益次郎が関与してできた国家神道靖国的な、明治以降の幽界観を、「皇国の総力戦の敗戦」を受けて、あるいはその名で行われた残虐非道を受けて、より地に足についた、むしろ、原義の、キリスト教的な「神の国」への幽界に近づいたものに、変更してゆくことになる。
 

 仮にだが、今、死後、天皇が拝みにきてくれるのは、三原じゅんこ氏の八紘一宇精神で生きたあかつきではなく、現行憲法の精神に殉じて生きたあかつきに、である。天皇靖国に参拝にいけなくなっている、今の位置を、引き戻すのではなく発展させて、新たな形の追悼施設を作ってゆく、あるいは決めてゆく必要がある。一つには、戦後、こういう領域の問題を誰も考えようとしないから、「八紘一宇」が、劣化した形で芽吹いてくるわけだ。民族宗教から日本的な普遍宗教へ、かつ、政教分離しながらの、戦没者慰霊の落とし所、この領域を確固としておかないと、雪崩のように劣化退化してきそうな予感がある。そして、それは国旗、日の丸の、新たな意味づけ、新生でもある。より普遍的、世界的な意味を持つ日の丸である。教育面で米国にも邪魔されてなのかもしれないが、結局、そのレベルの創造ができないで、戦後70年、ずるずる来てしまったなれの果てを見ているのではないか。


【参考過去記事】
2014-09-07 「人間天皇」とともに、新しい日本の歴史をつくろう
http://d.hatena.ne.jp/sarabande/20140907