『A2-B-C』へのエール

 イアン・トーマス・アッシュという在住米国人のドキュメンタリー監督が、隠蔽されつつある福島の放射能汚染について、現地入りしてつくった『A2-B-C』という作品が完成したことをツイッターで知り、その予告動画をみて、どこか日本で上映されたら、遠方にであっても行ってみてみようと思っていた。今年の10月の岩手映画祭でやるという情報があったので、そこまで行くかとは迷っていたのだが、近場の東京でやってくれることになったので、時間をつくって昨日、見に行ってきた。たぶん、海外のドキュメンタリー映画賞を、何個か連続してとったので、「ポレポレ中野」なる映画館ぐらいだったら、取り上げるという流れになってきたのだろうと思う。以下、昨日のツイートをまとめておく。深刻な問題にしては、ユーモアをいれたが、これは、フランクル的な所からのユーモアであることを理解していただきたい。



A2-B-C 予告編
http://www.youtube.com/watch?v=ZD9yGONdEUY

公式サイト
http://www.a2-b-c.com/




東京で時間がとれたので、A2-B-Cポレポレ東中野でみてきたが、あれだけ私の中では話題作なのに、なんと入館者は3人。これが現実なのだろう。外国人監督にしか吐露できないような福島県の方の正直な訴えに満ちていた。


一言でいえば、美味んぼ福島の真実編の実写版だ。子供が尋常ではない量の鼻血を出したというお母さんの証言。風邪といわれたが血液検査され、白血球がかなり少なかったと。全身発疹も伴い、当時は知り合いの看護師から、こういう人がよくいるといわれたとの話。


それから、除染作業の実体。頑張ってやっているのは、痛いほどわかるが、学校敷地内、家の敷地内だけで、一歩外にでてしまうと高線量だ。学校のフェンスのすぐ外で、30μSv時を記録。さすがに驚いた。これにめをつぶり、綾瀬はるかラブなのだ。


登場している、問題意識の高いお母さんたちは、20ミリでいいじゃん派からみれば、放射脳にとりつかれているように、気の毒に見えるだろう。それが似非識者のまなざしだ。


だが子供の身体は正直である。遊びに家に集まっている中学生の子供のほとんどがA2 小のう胞(20㎜以下)ありだ。こんなに頻度たかいとは思わなかったが、医大は、最近の頻度上昇もスクリーニング効果、検査の腕が上がったからと強弁していると。検査感度を動かしてしまえば、科学的判断は成り立たなくなるのに。
A2のう胞以外にも、数えられないぐらいの小さいのう胞が子供にあると言われたと話す母親も出ていたが、この所見は、「ふくしま共同診療所」からの情報で以前みたものと一致している。


福島共同診療所の昨年秋の報告会の様子
http://www.fukushimacollaborativeclinic.jp/報告/



それから、ショックだったのは、中学生たちが、「自分は白血病になる」「癌になる」と口々に、諦めたようにいっているのだ。郡山では保健の副教材で、半分の人は癌で死ぬというのがあったが、その教育が行き渡ったわけか。一方で、必要以上の健康の心配は放射脳のストレスだ、それだと自業自得だから、諦めて安心しろとも指導しているのか?


さらに小さい幼稚園児は無邪気だ。線量計をぶらさげ、「放射能はかってるの」とイアン監督にいいなが、走り回っている。「滑り台の角が高いの」といいながらも、まったく気にする様子もなく滑り台を滑り降りる。冒頭のシーンだが、これも痛かった。


幼稚園児に、目に見えない、臭いもない、すぐに毒性がわからない放射能の危険を理解させることは、できないだろう。なにせ、田母神でさえ、理解できないから。難しいのだ。


最後の方で、祖母と母といった2人が、水源の森から、そこの葉の裏の水滴から、福島は汚染されてしまった、もう戻らないんだ。怒れなくなっているけど、怒ってもいいのよ、怒っても、と2人で涙しながら話す場がある。これが、本当の福島県人の心の底の叫びだろう。


だから、A2BCは、おいしんぼの実写版である。福島県のこどもたちに捧げられている。都民はほとんど見ないようなので残念だが、是非、都民の電気を供給してくれていた福島のドキュメントだから、みてあげて欲しい。他にはないような濃いジンジャーエールも楽しめる。






P.S.1
本日午後6時のNHKニュース、トップで、大飯原発再稼働を争った裁判で、不可だとの判決が下された。原告団長の中嶌哲演さんの様子に興味を持ち、検索したら、かなり本腰を入れて活動してきた方であることがわかった。私のA2-B-Cをみたあとの、「この目前の危機への無関心、圧倒的な空気による危機のごまかしこそが、太平洋戦争を生んだ国、そして敗戦した国、日本の実体ではないか」という思いともリンクしてきた。


【必読リンク】原発のある地域から第1回(福井県小浜市真言宗御室派 棡山 明通寺 住職 中嶌哲演さんに聞いたhttp://www.magazine9.jp/genpatsu/tetsuen/index.php
本日の大飯原発再稼働阻止裁判の原告団長中嶌哲演師の活動体験が詳しく書いてある。宗教臭は皆無で、非常に本質的な点に触れている


哲演「被爆者支援という前史があったことで、原発の危険性を実感できたと思っています」


sarabandeコメント
この原体験、美味しんぼ的な健康障害、実害を認め、見ること、人間として責任をもつこと、これがないと、脱原発運動は、原子力マフィアに懐柔され脱骨てゆくのだと思う。



インタビュアー)原発は支配する側される側の関係を象徴?
哲演「原発推進の構図はかつての戦争とも重なる。旧大日本帝国は、植民地支配したアジア諸国や太平洋の島々に傀儡政権を作り、住民を統治した。私には、青森や福島、若狭のいずれもが、かつての植民地国と同じように見えます。国内植民地化といいましょうか。
 原発立地自治体には、電力会社や地元の推進勢力による "ミニ原子力村"が作られます。これは植民地国の傀儡政権に相当し、お金の力で陰に陽に住民を抑え込む」


哲演「こんな非民主的なやり方は、植民地への侵略とあまり変わらないと思います。また、それに無関心でいることは、侵略戦争が行われているのに大本営発表だけを鵜呑みにしてきた、かつての日本国民とまったく同じです」
私も、昨日3人の入館者だけのポレポレ中野A2-B-C上演を体験した後、東中野駅へ向かう坂をのぼりながら、まさしく、これと同じことを思った。




P.S.2
ふくしま共同診療所が、4月にクリニックレポートのようなものをだしているので参考になる。院長は国立がんセンター放射線診断部医長をしていた、日本超音波医学会指導医もしている松江寛人氏である。もう一人の主力メンバーは、循環器内科医で群馬県館林厚生病院副院長の布施幸彦氏だ。私は、その人が、見ていること、考えていること、やっていることで、人を判断したい。この診療所での存在があって、はじめて、福島にも、かすかな、かすかな光がともっていると思う。私から見れば、彼らの存在こそ、日本の誇りであり、闇の中の光である。


http://www.fukushimacollaborativeclinic.jp/ここから通信/
水俣病は50年たっても診断基準や救う人もきまっていない。我々は覚悟して、放射線による健康被害を認めない国や東電と闘わなければだめ。めをつぶっていてはだめ」