『美味しんぼ』へのエール

 『美味しんぼ』という、ビックコミック スピリッツ連載の長寿漫画で、私から言わせると一般的な初期被曝症状、原爆の際の入市被曝症状が赤裸々に取り上げられ話題になっているが、超有名作家の「漫画」という、誰でもアプローチできる媒体に載ったことで、大きな騒ぎになっている。たとえば、岩波の『科学』に、東電側の主張と異なり、福島第一原発電源喪失が、津波到達時刻前に起きていたという主張についての緻密な論証脚注)がでていても、なんのバッシングにもならないが、今回の事は、数日にわたって、NHKニュース7でも取り上げられる騒動になっている。
 昨日から、本日にかけての関連ツイートを、『美味しんぼ』へのエールという思いで、まとめておく。ここに実名で登場している井戸川町長をはじめとする方たちは、世間のマジョリティーをなす「空気」的権威を笠に立てて攻撃してくる者たちの標的になることを、十分覚悟していたようである。作者も含め、堂々とした反論をしている。是非、ひるまずに、雁屋さんと小学館は、取材にもとずいた、初期の構想通りの展開をしきってほしいと思う。
 ただ、本来、この問題は、研究しようと思えば、すぐにでも、原爆被害の時にでも、チェルノブイリの時にでも、できることであった。それを、誰もできない現状から、雁屋さんが自分のフィールドでやむを得ずやったのだ。「これまで誰も調査できなかった」という異常な現状にこそ、スポットを当てるべきである。そこから、本当の問題がみえてくる。この問題の真の構造は、すでに、広島原爆投下後1945年9月に、惨状をレポートしようと入市したオーストラリア人ジャーナリスト、バーチェットの「最初の爆風や猛火の大虐殺から生き残った人々に、あるいは、川魚にも、新しい病気が襲い掛かっていたこと」についての報告を、T-F・ファレル戦略部門原爆調査団が合理的な返答せず威圧的に否定した会議において、始まっている。



『院長の独り言』より、重要事項なので引用しておく
http://onodekita.sblo.jp/article/64898055.html
2013年4月14日
ピカの毒−残留放射能−の真実(投下直後からプレスコードで隠蔽した米国と暴いたオーストラリア人記者)

 原爆の投下の中で、最も隠蔽されてきたのが、いわゆる「ピカの毒」と言われてきた代物−残留放射能−です。この残留放射能は、原爆を使う上で最も大きな問題であるとともに、差別の要因ともなりうるので、米国の意向(核兵器の残虐性を隠す)と日本の意向(体制維持と被曝被害隠し)がマッチして、被爆者自身が大きな犠牲となっています。

 放射能は管理区域から持ち出さないように、除染する必要があるわけですが、プレスの前でそれを端的に話すと、大臣の首が飛びます。

(中略)

さらに、1945年9月に広島に入ったオーストラリアのジャーナリスト W. バーチェットは、その著書広島today のなかで次のように記しています。


2つの現場報告
『原爆疫病。「私は、世界への警告として、これを書く」
医師たちは働きながら倒れる。毒ガスの恐怖−−全員マスクをかぶる。』エクスプレス・スタッフ記者、ピーター・パーチェット
これは、広島からの私の電報を紹介するデイリー-エクスプレス紙の見出しであった。当時「原爆放射線」という用語は、私も、大方の読者も知らなかった。だが最初の爆風や猛火による大虐殺から生きのびた人びとに新しい病気が襲っていたことは私には分かった。病院の残りの建物で生き残りの幾人かの人と会って、担当の医師と話した。私の報道は一九四五年九月五日付の第一面全面と、裏側のベージの大部分を占めた。ローレンスはファレルを頼りにするほうを選んだ。ニューヨーク・タイムズ紙の彼の報道は、どうしたわけか次の見出しで九月十三日付にな場したのみであった。


『広島の廃墟に放射能なし。陸軍調査官、大地の溶解もなしと報告−六万八千戸の建物に被害。』
東京九月十二日 HW・L・ローレンス(ニューヨーク・タイムズへの電報〉。彼は次のように報告している−
T-F・ファレル戦略部門原爆調査団団長は、爆破された広島を調査したあと、秘密兵器の爆発力は、原爆発見者が考えていたものよりも大きいと報告した。しかし、その爆弾が町の廃墟に、危険で長くのこる放射能や爆発の瞬間に毒ガスを生んだことは否定した。
彼はその指弾下の科学者グループが調査をはじめた九月九日、爆発地点に放射能が残こっているという証拠は見つからなかったとのベ、彼の立見として、現在の地域で住むことによる危険はないと語った。
『目標地域における物理的破壊は実際には完壁なものであった』『情景は惨状そのものであった。破壊、損害を受けた建物は全体で六万八千であり、広島市の全建物のおおよそ80%〜100%にのぼった』と彼は報告した
(中略)


「会議は終わりにちかづいていた。しかし、その会議が広島から私の電報−原爆の後障害で人びとは死んでいったという−を否定することが主たる目標であったことはあきらかであった。准将の服装をした科学者が、原爆放射線−私が説明した症状を呈する−の問題はありえない、なぜなら、爆弾は、『残留放射線』の危険をとりのぞくために、相当の高度で爆発させられたからだと説明した。
私が部屋に足を踏み入れたときは、劇的な瞬間であった。みすぼらしい身なりのために、服装がきまって勲章もつけた将校より不利であると感じた。まず質問したことは、報告をした将校は広島に行ったことがあるのかということであった。彼は行っていなかった。私にとって出だしは好調であった。私はみてきたことをのベ、それについての説明を求めた。彼は、門外漢に対して説明する科学者のように、最初は全く紳士的物腰であった。私が病院で会った人たちは、大爆発にともなう爆風と火災の犠牲者であった。日本の医師らが、彼らを扱う能力がなく、または、正しい薬物治療ができないでいることは明らかであった。将校は、爆発時に広島市内にいなかっだ人も、おしなべてあとで影響を受けたとの主張を無視した。意見のやりとりのなかで、市の中心部を流れる川に入ると死んでいく魚のことをどう説明するのかという私の質問に、問題はしぼられていった。
『魚が死んだのは、明らかに、爆風によるか水の温度が極端に高くなったせいです』
『一ヵ月たってもですか』
『潮の干満の影響を受ける川ですから、うしろに流されることもあるでしょう』
『だがね、私は市の郊外の場所に連れて行かれて、そこで活きている魚が川のあるところまでくると腹を上に向けるのをみたんですよ。その後、あっという聞に死んでしまった』スポークスマンは顔を青くして『君は日本の宣伝の儀牲になったのではないのかね』といって、腰をおろした。おきまりの『サンキュー』で会議は散会となった。
私の放射線の話は否定されはしたが、広島のことがその直後から大っぴらに話されるようになった。
私は米陸軍病院に、検査を受けるために連れて行かれた。その後、白血球の数が減っていると知らされた」


院長コメント 
本当に最初から、残留放射能を隠すべく米国が画策していたことがよくわかります。そして、それは肥田先生がこの事故が起きてから、何度も何度も述べていたこととも一致します。


以上引用。
 この対立構造が、「元型」となって、時を超え、場所を問わず、繰り返し、繰り返し、疾病、および関連した通常ではない死亡者を大量に生みながらも、チェルノブイリのみならず、福島原発事故を経た現在にもあらわれているのだ。今は、美味しんぼ作者雁屋さんと、その実名の現地からの告発者と、福島県知事、石原環境相橋下知事といった構図になって、現れているいるだけであり、基本は繰り返されている。
 この「元型」的な根強さをもつ布置は、核兵器の人道性を担保するための、非人道的な強弁を世界中に跋扈させているのだが、私は、これが、現在の人類の負っている最も大きい十字架の一つであると思っている。それは、核兵器が現代のリヴァイアサンとして君臨し、その脅威によって人類が治められている、それに人類が甘んじているという布置である。これは、ただ、日本人としては、あまりに、受け入れがたい事実であり、人間というものの情けなさでもある。が、しかし、これに対抗する政治理念、決意を、脱核の決意を、この事実を告発するところから、世界に例のない、3重の核の被害国、日本からこそ、始めることができるのではないだろうか?あるいは、それこそ、日本が世界に向けて、胸を張って進むことのできる道ではないか。これは、難しい細い道だが、それでこそ、日本が、心の底から天に向けて筋が通る国家になると思うのだ。





以下、私のツイート引用


1.この件については、国連の権威を笠にきることは正当ではない


福島県「国連を始めとする国際的な科学機関などから、科学的知見や多様な意見・見解を、丁寧かつ綿密に取材・調査された上で、偏らない客観的な事実を基にした表現とされますよう、強く申し入れます」
福島県は、WHOを権威にして、雁屋、小学館を斬り捨てようとしているのか。恥を知った方がいい



原発被害に沈黙するWHO:IAEAの同意なしに発言できず」ル・モンド紙(2011年3月19日)
2011年4月 1日 (金) フランスの猫ブログより
http://franceneko.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/whoiaea319-5f9b.html


2011.3.19ルモンド「アリソン・カッツは以前WHOの環境課に勤めていた。「WHO内でも、チェルノブイリの被害が過少に見積もられていることに対して落ち着かない気持でいる者が何人もいる」と言う。そして、日本のケースについてもまた同様のことが起こるのではないかと心配している」


ルモンド「2007年には「独立したWHOを目指す会」が結成され、カッツ氏(前WHO環境課)を含むメンバーが毎日WHO本部の近くでIAEAとの協定廃止を求めてデモを行っている。WHOは、ル・モンド紙がIAEAとの関係について質問したのに対し、これまでのところ回答を拒否している」


IndependentWHO – 原子力と健康への影響
http://independentwho.org/jp/%E3%83%92%E3%83%9D%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%86%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%A6%8B%E5%BC%B5%E7%95%AA-2/
このWHOへの年余に渡るデモを見学に行くことが、原発事故の真のブラックツーリズムである。東某のような甘ったれたことを言ってはいけない



伊藤隼也 ‏@itoshunya
鼻血にも通じる問題→そもそも国連科学委員会は、福島原発事故後、原発事故周辺地域に公式の事実調査に訪れたことはない。同委員会による放射性物質による汚染や公衆や作業員等の被ばく健康影響について予測は日本政府福島県等から提供されたデータのみ http://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20131027-00029263/




2.『美味しんぼ』を読んでのコメント



福島大、美味しんぼ描写は「個人の見解」 http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20140512-1299966.html
スピリッツ買って読んだが、これも、驚いた。福島大学、荒木田先生が、実名での、原子力マフィアへの内部告発である。よくやった。とにかく、よくやった。
荒木田「私は除染作業を何度もしました。その度に、のどが痛くなるなど具合が悪くなり寝込む。単なる疲労かどうかわかりませんが、必ず寝込む。しかも、除染をしても汚染はとれない。汚染物質が山などから流れ込んできてすぐに数値が戻るんです」


荒木田「除染に意味があるとすれば、例えば阿賀野川を除染して、日本海に広がるのを阻止するなど、汚染を広げない作業です。福島を広域に除染して人が住めるようにするなんて、できないと私は思います」
「私は思います」だから、個人的見解だが、彼は体を張って経験した所から、重い言葉を発している


井戸川元町長もそうだが、国に嘘をつかれ、ひどい被曝をし、さまざまな身体症状の重荷を負ったという体を張った体験から、言葉を発している。佐藤知事は体を張って除染したのか?橋下は、石原はどうだ?お前たちの言葉は、体を張った所、被曝を経験した所から出ているのか?そう問いたい。


美味しんぼ」は始めて読んだが、料理の話はまったく出てこない。福島の真実23とあるから、こんな展開で長々とやっていたというのも驚きだし、それが許されるぐらいの信用が、この漫画の作者、雁屋氏にあるからこそであろう。


でて来る登場人物が、ことごとく新聞記者だったりするのも、驚きであった。本来、雁屋さんにこんな主張を書かせるべきではなく、実際の新聞記者、テレビドキュメンタリー作家が、こういう報道をするべき立場にある。が、IWJも含めて、本気でここに立ち入ることは、なかなかできない所だった。


大御所級の漫画家が、自分の信頼、これまで築き上げてきた名声、漫画の社会的信用、それをすべて賭けてでも、主張せざるを得なかった。そういう自由な場所にたどり着いた者にしか、これはなしえない芸当だろう。



3.「福島に住んではいけない」の後に、どのような答えはあるか?


「福島には住んではいけない」「福島を広域除染して住めるようになどできない」ここまで、福島県人にいわしめている現状があるのだが、ではどうするのか?どこで線引きをするのか?どこに疎開するのか、それを誰が補償するのか。雁屋さんは、どう展開させるのか。


私は一度、福島に足を踏み入れ、半日ほどウロウロしたが、あの果てしなく続く、なにもなかったような日常、何十万の人々をみると、そこで、この巨大な壁を実感する。原子力災害の規模の大きさ、手のおえなさだ。原発という魔物を受け入れてしまった立地自治体、県民に矛盾のつけはふりかかってくる。


福島をみれば、だから、わかるのだ。原発事故がおきれば、結局は、なにもできやしない。避難も何も、有効にはできない。その後の健康被害も、国も電力会社も、WHOでさえも、一部甲状腺癌以外は、認めてくれはしない。自治体首長は、あるいは、地方議会は、それを、反面教師にしなくてはならない。


福島をみてください。それでも、原発やりますか?これは、国ではなく、当事者である都道府県知事、立地自治体、都道府県民に問いかけられるべき問いになる。生活当事者ではない、国や東電の説明、安全委員会の太鼓判は、結局、信頼ならない。新潟も静岡も独自の評価機構を作り出してきている。




【過去記事紹介】
この機会に私の論拠となる論文を示しておく。疑義があれば、同じ研究は、福島でもできるはずだ。
バンダジェフスキー心電図論文要旨と、板橋区の心電図異常の解釈、及び、その政治的問題 2012 年 5 月 24 日
http://www.asyura2.com/12/genpatu23/msg/920.html


新聞のデータを使った簡単な統計検定記事。この一日だけでも、偶然と棄却するには問題が大きい。ヤブロコフは、こういう公的データで研究をやった
2013-07-18 福島県と静岡西部のお悔み欄の比較から考えること 
http://d.hatena.ne.jp/sarabande/20130718



脚注)『科学(電子版)』第84巻第3号,e0001頁,2014年
再論 福島第一原発1号機の全交流電源喪失津波によるものではない……伊東良徳
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/e-Kagaku.html
(岩波「科学」が社会貢献活動として無料でPDF論文公開している)