ラシュコフスキーリサイタル in 浜松

 昨年の浜松国際ピアノコンクールに優勝した、ラシュコフスキーのリサイタルが一昨日(11月22日)あり、近いし安いし、時間もあったので、また聴いてきた。とにかく、完成度の高い演奏をされるようになり、確実に、この一年の、優勝者ツアーや、オーケストラとの競演を機会に、成長してくれたのだと感じた。 丁度、コンクールの本選があったのも、昨年の11月の今頃だった。私が、彼の演奏を「ドライだ」と評していたのは、3次予選の「展覧会の絵」の演奏を聴いての感想で、音のシャープさとダイナミックさは圧巻なのだが、どうしても耳障りな感触があり、聴いていて、やや疲れてしまうような感じがあった。ただ、今から思えば、コンクールの裏の大詰め、3次予選は、もっとも、コンテスタントにとっては、疲弊するとともに、緊張感を強いられる舞台であったのかもしれない。コンクールでの追い詰められ感、それを反映した部分も多分にあったのだろう。一昨日の彼の演奏には、そういうドライさは、完全ではないが、ほぼ99%は感じられなくなっていた。(独断的感覚でいえば、「火の鳥」パート1のところの連打部分で、一瞬、ドライで音楽的感情がついてこない一年前の「既聴感」を感じるところがあったが、その他は、まったくそういう危うさはなかった。)私が掲示板、ブログ上で推奨した、ウエットという方向で発展しているわけではないが、シャープさと繊細さ、そういった中での極めて大きなダイナミズム、そして、ショパンの練習曲集では、それに追加して、私がセゴビアのギター演奏で提示したような(「ラシュコフスキー in 浜松」http://d.hatena.ne.jp/sarabande/20130714 参照)「エスプリ」の萌芽を、感じさせるところがあった。これは、好ましい方向への成長であると思う。また、彼は、オーケストラの指揮もやってみようかと思い始めているとのことだが、それを反映してか、ショパンの練り上げた曲の構造を、十分に玩味した上で、自由自在に、それを演奏として表現しているようなところが見られたと思う。それは、あたかも、完璧な造形物を、壇上のパフォーマンスで作成し、それを、ピンとはりつめた空気の中に、浜松の聴衆の独特のサイレンスの上に、「置く」、そんな演奏であった。
 だから、今回のプログラムの、特に、有名どころのベートーベン「熱情」と、ショパンの練習曲作品25は、息を呑みながらの、時間がすぎるのがあっという間という形の、極上の音楽体験をさせてもらった。彼は、無骨なりに、とにかく、成長してきてくれた。無骨というのは、もう失礼であり、great pianist予備軍と、敬意を込めて称したい。ツィンマーマンに匹敵するようなタイプの、あるいは、それよりも、「骨」と「ガッツ」のあるピアニストになってくれるかもしれない。



 ショパン練習曲集が、ビクターから10月末に発売された。井上道義体験を経て、コンクール優勝後約半年時点でのラシュコフスキーの演奏である。浜松ピアノコンクールウォッチャーではなくとも、一聴の価値はある。


ショパン:練習曲集[全曲]
Op.10, Op.25 , 3つの新練習曲 遺作
演奏:イリヤ・ラシュコフスキー(ピアノ)
録音:2013 年6 月24 〜 25 日 群馬・笠懸野文化ホール
ビクターエンタテイメント(株)VICC-60869
http://www.hcf.or.jp/information/2013/10/cd_3.php



伊熊よし子のブログ 
http://blog.yoshikoikuma.jp/?eid=212398
新譜について、本人にインタビューしたとの記事



ロシアの俊英ピアニスト、ラシュコフスキーが来日公演 ショパン「練習曲」で新境地
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/131103/ent13110316050003-n3.htm
ショパン練習曲への思いについて、インタビューも入った、結構、まとまった記事。