IWJ主催『世界が食べられなくなる日』上映会

  去る、8月24日、東京の恵比寿にて、生で岩上さんの話を拝聴することができた。会の主体は、遺伝子組み換え食品へのフランスで起きた抵抗運動を、約2年にわたる実験動物への投与実験を中心にしてまとめた『世界が食べられなくなる日』というドキュメンタリー映画の上映会であった。巨大な腫瘍がたくさんできるという長期投与実験の結果の悲惨さはネットでは知っていたが、遺伝子組み換え農場に乱入して、トウモロコシをなぎ倒してゆく「刈り取り隊」という「過激派」が存在することは目新しかった。専門家も動員した裁判での抵抗運動も含め、さすが、市民革命を起こしたフランスであると思わせるような内容であった。遺伝子組み換え食品は、遺伝子操作された食物自身の長期摂取による毒性もさることながら、それ以上に、農薬使用に対するモラルハザードが起きてしまい、栽培や流通などの過程で、これまでにないような高濃度の農薬暴露によるとしか考えられないような、農家、流通運搬業者への発癌が問題になっており、これが、クローズアップされていた。彼らは、あたかも、原発労働者のようであるが、このドキュメンタリーでは、原子力発電と、遺伝子組み換え農業を、ほぼ同列に扱っている。また、これらの技術の源流は、米国の同一組織につきあたるということも話題となっていた。
 休憩後の、岩上トークでは、この遺伝子組み換え技術に関連した問題を話されるのかと思ったのだが、内容はむしろ、TPPに関連した話が主体となった。TPPについては、ネットで主に情報をしいれていたのだが、改めて岩上さんからまとまった話をきくことで、日本が、この数年で、実質的に米国に併合されてゆき、いわば、本土が沖縄化してゆくであろうこと、また、TPP条項のさまざまな仕掛けによって、日本企業がこれまでのように、対等な形で、米国企業との競争には望めなくなるであろうこと、そんなことが見通されてきた。一昨年12月にバンダジェフスキーの話を等々力で聴いたときは、今後数十年で起きる健康被害をなんとなく見通した気になったが、今回なんとなく見えてきたのは、TPP後に、日本の経済的、政治的主権が、覆されてゆくようなそんな未来だ。これらの制度的転覆のみならず、TPPに反対する大学教員の会が試算した、日本農業の半端ない打撃の話もあった。メキシコはトウモロコシの長い長い歴史的な、産地であったが、米国とのNAFTA締結にて、自国のトウモロコシ農業が衰退し、米国から輸入を余儀なくされるようになったということから、日本のコメ農業も、同じ末路をたどるだろうと。米国にとっては、他国の歴史、伝統などは、たいして重要ではなく、容赦なく利益や、あるいは、食料による他国民の支配の思惑からも、日本にメキシコにしたのと同様の攻勢をかけてくるだろうなと思われた。現在のような、豊かな水田地帯の四季の風物詩も、櫛の歯がぬけるように、姿がみえなくなってゆく可能性がある。夏の田植え、昔よりも静かになったがカエルの合唱、盛夏の勢いよく伸びる緑の稲葉、そして秋の稲穂と刈り取り、こういうあたりまえだが、実は豊な風景が、あと何年維持されるだろうか?
 これだけ、日本の未来にとって、国の独自性、統合性、独立性を維持するにあたっての「致命的な」問題のある協定にもかかわらず、TPP視察団の帰国後会見で、記者クラブ若手記者はまったく上の空であり、岩上さんだけが、団長の原中元医師会会長と取材のやりとりをしてしていたという。それをみて、原中団長が、若手記者を「そんなのでいいのか」と説教する場面もあったという。若手記者からすれば、取材をしても、どうせ、上司に没にされ、記事として載せてくれないということがわかっているからということかもしれないが、そういう事情も含めて、日本のマスコミは、すでに、日本のマスコミではなくなっているということ、また、それに抵抗、反発する勢力が、マスコミ内にはほぼいなくなっていること、これを改めて思い知らされるエピソード話であった。マスコミ幹部を通じて、TPPの最も不都合な真実については、事実上、報道規制がしかれているのだ。
 また、岩上は、汚染水報道を軽く扱う日本のマスコミに対して、何人もの海外記者から狂っているといわれたという。この問題に対するあまりにもの鈍感さから、日本マスメディアの狂いが、外国メディアの人にも、はっきりわかるようになったのだろう。私にとっては、小泉郵政選挙の時から、テレビ新聞(これはスポーツ新聞も含む)が、まとめて狂いはじめたと思うようになり、小沢事件で狂ったと断定できるようになった。あまり見つめたくない事実だが、人権、民主主義、ジャーナリズムこういう価値の土台が中心的なところで崩れた社会に突入しつつあるのではないかと思う。逆に、崩れたことに気付かない、あるいは、そんな価値など数字にならないし、面白くない、そういう者が、ますます幅をきかすようになるだろう。加えて、TPP取材を放棄する若手記者の話を耳にすると、どうも、日本の国としての個性や独自性、食糧自給などの独立性の担保などは、20代、30代ぐらいの次世代を担ってゆく若い世代にとっては、実は「どうでもいいこと」になりつつあるのかもしれない。人権、主権、国としての独自性、統合性は、戦わなければ奪われる。歴史は主体的につくらなければ容易に後戻りするのではないか。
 岩上は、今回繰り返し、日本が韓国併合にあたって、矢継ぎ早にとった攻勢を見直してみよ、と話していた。結局、TPPによって今度は日本がアメリカから、同じ攻勢を受けているという理解である。アメリカの本音の眼差しを思うと、言葉をなくす。この数年間で、あのときの韓国人の立場を、実感として理解できるようになるだろうか。だが、これは、おかしいことなのだ、NOといいつづけようじゃないかと、最後に岩上さんは言ってくれた。マスコミという日本の情報空間の制空権を奪われたなかでの、竹槍反撃のような感じになってきているが、竹槍ぐらいは持っているんだからやるだけやろうと思うことができて幕となった。



【参考リンク】
1.2013/02/21【IWJブログ:「TPPは現代の植民地政策」 米韓FTAの惨状からTPPを考える 〜郭洋春氏(立教大学経済学部教授)緊急インタビュー】
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/59810
米韓FTAの、無茶苦茶な条項の数々が解説されている。これらの意味合いは、市場開放だけでなく、そこで米国企業への利益保証します、利益でなかったら、どうぞ訴えてくださいというような内容である。彼らの金科玉条である「市場競争」をある意味、踏みにじっている。米国の企業法人を介した、韓国内既存諸制度の改変と、その上での市場競争を抜きにした侵攻ともいえる。これが、日本でも起こるのだ。すでに、がん保険では、起こっているではないか!
 全編みたいところだが、正会員はもうひと押しサポートしないとみれない。


・「ラチェット条項」米国自動車が韓国内で売れないと、これは不公平だとして訴えることができる。米国はいくらでも韓国に自動車を輸出できるが、米国内では米国車を保護している

・「間接接収による損害賠償」言語、法、慣習等により、米国企業が『不利益を被った』とみなされた場合、訴えることができる。条文には、『合理的に得られる利益が得られなかった場合』とある。つまり、米国側が『非合理的』とみなせば、訴えることができる『公平な競争』を最も阻害するのは、『言語』という理屈です。公共調達の際の行政文書や法規等も、すべて英語で書かなくてはならなくなる。

・「非違反提訴」というものがある。違反していなくても、『期待された利益が得られなかった』という理由で提訴することができる。

・「サービス非設立権」というものは、法人企業が、その国に登記をしなくても、その国で営業ができるという条項




2.TPPは危険?米韓FTAの恐怖を解説!郭洋春 JAM THE WORLD 平成25年7月28日
https://www.youtube.com/watch?v=X3V8Dspkgzc
以下、簡単なまとめ。


米韓FTAとは一言で言うとどういうものか
 企業の自由な経済活動と、市場へのアクセス、参入、それを保障するために、韓国の法律、制度、習慣がアメリカの企業にとって不利益と思うならば、かえさせる、あるいはかえることができるような条約。


 すでに、公認会計士法とか60以上の法令、条例ががかえられている。アメリカは、韓国の企業の活動のためには、法令は変えたのはゼロ。序文自体に「韓国の企業がアメリカに進出した場合には、アメリカの国内法が適応されるが、アメリカが韓国に進出した場合には、米韓FTAの協定が適応される」とある。非対称的な、不平等協定であることを証明するもので、協定全体がこの精神によっている。政府は、この不平等な内容を公表せず、ただ、自由貿易だという話だった。情報が一部の人に集中しており、国民はもちろん、政府の中にもごく限られた人した情報がいかなかった。
 この協定があると、脱原発や、高燃費自動車の普及のためのエコカー減税、学校給食の遺伝子組み換え食品禁止などのエネルギー政策、環境政策、食料品の安全基準など、米国とは別の価値感で進めることができなくなる。韓国大統領、当時のイミョンバクも、最終的には、自国民にとって利益にならない協定であると認めざるを得なくなり、「安全保障上の利益があるので賛成して欲しい」と、すべての国会議員に書簡を送った。北朝鮮のみならず、中国、ロシア、さらに南の日本といった大国に囲まれているぞと。議論のすり替えがなされた。


全体的な図式
米国の非対称な不平等条約締結のための安全保障問題の利用
 韓国には「日本も怖いぞ」という中で、米韓FTA
 日本には、「イミョンバクも、竹島きてるぞ」という中で、日米TPP
領土問題とナショナリズムを利用したアメリカのアジア分断化戦略と、それにより孤立化した韓国、日本を経済的に、ひいては政治的に併合する政策