「TPP参加交渉」たるものの本質

3月15日に、安倍首相が、TPP交渉参加するという記者会見を行なった。しかし、その前、あるいは、今に至るまで、マスメディアの中で、TPPについての全国民的な議論が、なされ始める様子はなく、断片的なニュースと解説のみである。それも、本質的な点を隠蔽した、貿易の問題のみに歪曲した話がほとんどであるように思う。批判的で良心的な視点は、ネットの中にしかみあたらない報道状況となっている。


1.パブリック・シチズン ワラック女史のメッセージ

 TPPの本質的な危険性を糾弾していた米国のNGO団体、パブリック・シチズンのワラック氏が、今回、交渉に参加しようとしている日本へメッセージを発してくれている。
http://www.youtube.com/watch?v=fm-6DR6o3vs&feature=youtu.be
 
これは、1分51秒なので、すぐ見れる。デモクラシー・ナウでのインタビューでもそうだったが、女史らしい、簡にして要を得たメッセージである。日本人の尊厳を守ろうとしてくれている、米国の友人からの警告といったものである。重要な言明であるので、以下、文字に起こして記録しておく。

「私たちは、TPP交渉が行われているシンガポールにて、日本政府がTPPに参加しようとしていると聞き、大変心配しています。日本が、ルールづくりに参加する権利も、何に合意するのかを知る権利すらないのに、参加しようとしているからです。
日本は、これまでのすべての合意を受け入れるといった。私たちは、そう理解しています。それは、900ページ以上もあるルールに日本の既存、および未来におけるすべての法制度を、合わせなければならないということです。貿易だけではなく、医薬品の価格やアクセス、食の安全や食品表示、郵便の規制や、エネルギーや輸送サービス、銀行、消費者の権利保障などの分野においてです。数多くの、貿易に全く関係のない国内政策が指図されていくのです。
 何が書かれているのかを見ることもできず、たった一文字の変更も許されないままに、このルールを受け入れること。それが、日本がTPPに参加する際に要求されます。
つまりは、日本は「交渉」に参加するのではなく、「すでに条項の定められた協定」に参加するわけです。なぜ安倍政権が日本にとって、こんなにも無礼で危険なプロセスに合意しようとしているのか、とても不可解でなりません。しかし、それが私たちの聞いたところです。すでに、協定に参加している国では、強力な反対運動がいくつも起こっています。しかし、それらの国は、すでに規定された条項が、押し付けられているわけではありません。日本の人々にとって、TPPへの参加は二重の意味で危険であり、二重の侮辱なのです。」


以下コメント

「TPP交渉」に参加するということは、知ることの許されない、一字一句も修正できない900ページ余りの条項に合わせて、既存の、さらに未来の法制度が、多方面にわたり影響されることを受容することであり、すでに、「交渉」ではないのだ。安倍は、聖域確保できるとのオバマの言辞を得たというが、実際の最終的な交渉の場であるシンガポールではそのような雰囲気はまったくないようだ。
 日本にとっては、相手に目隠しをされた上で、多国籍企業の都合がいいように作り上げた、詳細不明な法制度によって、一生、縛り上げられることになる。ここまで侮辱的な国際関係の在り方は、なかなか歴史的にみても、ないのではないか。TPPは、自由貿易の問題では決してなく、国民の主権や、国家の尊厳が、アメリカの軍需産業も含まれるであろう多国籍企業が主体となって、深刻に毀損されつつあるという問題である。日本の公共放送を含むマスメディアも、その一部になっている。
 日本は、郵政民営化は、政治的にどうにかしのいだ。しかし、今回は、尖閣問題に火をつけられ、日中の間にくさびを打ち込まれた上で、日本を軍事的に追い込むことで、TPPという侮辱的な条約への参加を余儀なくされつつあるように見える。アメリカは、菅とマスメディアをたきつけてもうまくいかなかったので、どこかで戦略を練り直したのかもしれない。アメリカに対する第2の敗戦になりかねない事態である。戦犯は、入院している将来には責任を持たない石原であり、尖閣問題の対応を読み誤った野田であり、おめでたくも「主権回復の日」を祝おうとしている三代目、安倍である。


2.岩上安身による内田聖子氏へのインタビュー

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/67417
「日本政府はすでに、TPP参加に際して、無礼で不公正な条件に同意している」米国交渉官が明言 〜秘密のTPP交渉会合に潜入した内田聖子氏が明かすTPPの正体。3月4日から13日までの間、シンガポールで開催されていたTPP交渉会合の中で飛び出した、米国側の驚くべき発言が明らかになった。14日、この会合に米国NGO「Public Citizenhttp://www.citizen.org/)」のメンバーの1人として参加した内田聖子氏(アジア太平洋資料センター 事務局長)が岩上安見の緊急インタビューに答えて、その内幕を赤裸々に語った。


以下コメント
 TPP問題については、身の回りにあふれているような、テレビ、ラジオ、新聞紙では、影の本質が隠され、貿易での聖域確保をどうするかというような一面的な議論や、「アジアの成長をとりこむ」「国家百年の計」といった作られたイメージに焦点があたり、マスメディアの報道が、本質である「ドラキュラ」のカモフラージュになっている。NHKもふくむマスコミに対しては、強烈で、癒しがたい違和感が、TPP報道についてはあり、この機にIWJの一般会員になって、みたいと思っていた内田聖子氏のインタビューを約2時間弱だが、すべて見通した。
 「日本政府が、無礼で不公正な条件にすでに同意している」という話は、インタビュー1時間5分ぐらいにでてくる山場となる情報だが、非公開の席での、米国交渉担当官が発言した内容で、誰がどこで言ったのかは、裏もとれているという。また、「無礼」というのも英語の直訳であり、内田氏や、岩上氏が、感情的被害的になって言った単語ではないものである。米国は、無礼で不公正であることを、重々、自覚しながら、日本に対して、「オレの要求を文句の一つも言わずに飲めと迫ったら、日本は飲んだ」と述べているのである。これが、TPP交渉の実体であり、交渉ではなく命令である。それだけは、東京新聞も含めた新聞各紙は、こぞって、認めようとしない。だから、メディアに接することは、国民の目をふさがれ、あらかじめ流布されたTPPイメージによる判断に傾かせるように、作用している。
 こういった条約締結は、歴史的に見ても、なかなかないのではないかと思ったが、岩上氏によれば、江戸末期の、ペリーとの間の日米修好通商条約も、太平洋戦争後の日米安全保障条約も、同じようなものであったらしい。内容がわからない国家間の約束事を、武力を背景にして脅されながら、一方的に、一人の日本代表者(井伊直弼と、吉田茂)がサインをさせられた経緯があったとのことである。今回は、安倍晋三が、その役回りを担わされつつある。そのくらい、歴史的に大きなことであるのに、まったくいつもと変わらないスポーツと娯楽による番組を、マスメディアは提供している。本来は、スポーツ、娯楽などは一切やめ、昭和天皇崩御のときや、震災後の報道のように、岩上氏、内田氏も含めた討論番組を、延々とまずはやり続けるべきぐらいの状況だ。内田氏こそは、無理を冒しながら、今後の日本のために、TPP交渉の実体を調査してきてくれた「愛国者」の筆頭ではないか。
最後の方で、メディアの問題について、1時間36分頃に、岩上安身が、とくダネ降板の舞台裏を、内田聖子を聞き役にして、激白している部分がある。これは、このインタビューの枝葉の部分なので、ちょっと書きだし失礼させていただきます。

岩上:TPPで、メディアは最終的に、外資に買われる。24項目の中に入ってる。   
   それを言って、テレビを下ろされた。12年やっていたとくダネ。
   TPPのことをいった、すぐその日に、お話があるとプロデューサーに呼び
   出された。お辞めいただきたいと。
  「そんなことで、本当にいいと思っているの。外資の制約がとられるので、
   放送局、新聞局も含めて、買われちゃうよ。
   特権的に割り当てられている電波も、オークション制になる。いいの?
   国として、メディアが成り立たなくなるよ」と言ったら、眼が泳いで
   いる。
  「そうなったら大変ですね、でも、あまり難しすぎて、僕はわからない」と。
   メディアのうんとトップにも話しました。みなさん目が泳いだ挙句、
   「うーん、僕はその話は、難しくてわからない」
   みんな、おばかさんになる。

 これで、日本のメディアが、トップレベルでも、TPP参加問題について、放送という国の根幹部分を毀損してしまう可能性について、眼を泳がせながら「難しくて、よくわからない」としか説明できない状況にあることがわかる。だから、TPP報道については、民法はもちろん、NHKも、映画のセットのようなものを取材して、都合いいところを聴衆である国民に見せて、言い聞かせているような、子供だましのようなものである。それをみた国民が、TPPいいねえ、おもしろいねえ、と支持するようになる。
 本当にTPPについて知りたければ、日本人の中でももっともTPP交渉内部に潜入しえた内田聖子氏をスタジオに呼び、大いに議論させればいいのであるが、それはしない。内田氏は、シンガポール交渉の取材には、日本のメディアは全く来なかったという。情けない。
 
 江戸末期、戦後と、過去2回と異なるのは、現在は、NGO活動があるし、ネットもある。今日はIWJを視聴しながら、3時間ぐらいかけて、この問題に接してきたが、自分の立場で、できることを、やり続けてゆくのみかと思う。