ジャクリーヌ デュ プレのフランク バイオリンソナタ、チェロ版

 本日、車で移動中に、たまたまNHKのFMをきいていて、「どこかで聴いたチェロソナタだが誰の曲だっただろうか。ブラームス調の音の運びもあるが、そこまで渋みはなく、ベートーベンにしては古典の香りが少ない。メンデルスゾーンは、ここまで深い曲想をかくことはないだろうし。しかし、名曲だ。それも、すごい名演奏だ。ピアノの音の密度が高く、チェロの響きは、ものすごい精神の深みからの悟り、叫びのようなものを感じさせる。」というような音楽に出会った。最後のアナウンスで、「フランクのバイオリンソナタのチェロ版、チェロ ジャクリーヌ・デュ・プレ、ピアノ ダニエル・バレンボイム」とのことだった。もう6年ぐらい前に、同じく車中のFM放送で、バイオリンソナタを聴いていて感銘を受け、これは誰の曲だと思って最後に確認したら、フランクのものだったという経験があったが、それとつながった。
 編曲ものとはまったく思わせない作品の出来であり、この曲は、チェロでしか表現できないようなよさも持ち合わせているのではないかとも思われた。さっそくネットで調べてみると、現在は指揮で有名なバレンボイムは、私にとっては非常に意外だったが、デュプレの夫であったとのことであり、またデュプレにとってこの演奏がスタジオ録音の最後になっていたそうである。なにかの不幸のあった才能のある女流チェリストぐらいの淡い印象しかなかったのだが、今回のフランクソナタによる邂逅により、鮮烈に印象付けられた。当時まだ20代だった彼女は、この演奏の前後より、「多発性硬化症」という病気を患い、数年後には演奏不能になってしまったようである。演奏家という自身のアイデンティティにとって深刻な意味を示す病にかかり、その淵から立ち上がって、支えてくれている夫の伴奏にのって、何らかの覚悟を持って演奏していただろう。CDで是非買おうと思う。ちなみに、彼女は、10代にカザルスに才能を見出され、キャリアを歩み始めたという。魂の琴線をぶれずに確信的に表現するような、同じガッツとスピリットがある。