内部被曝系論文のレビュー

 内部被曝系の論文を自分で調べてみると、チェルノブイリ汚染地で、バンダジェフスキー以降も研究が地道になされていることを知る。数本、抄録を呼んだ範囲だが、記事として残しておきたい。


Exposure from the Chernobyl accident had adverse effects on erythrocytes, leukocytes, and, platelets in children in the Narodichesky region, Ukraine: A 6-year follow-up study
Environmental Health 2008, 7:21
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2459146/pdf/1476-069X-7-21.pdf


Corresponding author: Wilfried Karmaus : karmaus@sc.edu
Department of Epidemiology and Biostatistics, Norman J. Arnold School of Public Health, University of South Carolina, Columbia, South Carolina, USA


 全文が無料で確認できる。岡山に移住した三田医師が、東京においても白血球数の減少を確認していると報告しているが、この論文では、ウクライナにおいて、6年間継続して赤血球数、白血球数、血小板数などのフォローアップ調査をした結果を報告している。これら数値の減少が、土壌汚染度と相関しているというデータだが、土壌汚染の範囲は、おおよそ、3万Bq/m2から、30万Bq/m2の範囲でしらべている。論文の終わりの方に、わかりやすい図が提示されている。この程度の汚染は、福島第一原発事故後でも、日本でみられているだろう。
 一方で、年々、これらのデータは増加しているということにはなってはいる。こういう研究があってこそ、「放射能お化け」が、どういう輪郭で、いつぐらいになったら消えるのか、あるいは、消えたように見えて次の世代に引き継がれるのか、などの情報が得られ、「お化け」が、特定の診断できる「疾患」になる、と私は思っている。




Genomic Instability in Chidren Born after the Chernobyl Nuclear Accident (in vivo and in vitro Studies)
https://www.researchgate.net/publication/225793403_Genomic_instability_in_chidren_born_after_the_Chernobyl_Nuclear_Accident_in_vivo_and_in_vitro_studies


A. V. Aghajanyan: annaghajanyan@yandex.ru
Federal State Institution Russian Scientific Center of Roentgenology and Radiology, Moscow, 117997 Russia


 こちらの論文では、原発事故後に出生した子供のリンパ球の染色体異常の出現率について、その細かい形態とともに調査したものである。これも、ネットで英文全文が確認できる。予想通り、染色体や染色質の異常が確認できるというもので、リクビダートルの子供では、それがはっきりしていたとされている。この論文で特徴的なのは、対象者のリンパ球にガンマ線照射をして、137Cs内部被曝のin vitro実験をやっていることである。その結果、照射によって、同じような染色体異常が誘発されるとしており、事故後に出生した子供に観察された染色体異常の原因を、内部被曝に求める根拠としている。もちろん、そこで起きた染色体異常の位置がまずいと、白血病がひきおこされる。
 分裂する時に、137Cs放射線の影響が現われるという話のようであるが、さらに細かく読みこむヒマと気力はないので、知りたい人は、各自、原典にあたってほしい。




The problem of the transgeneration phenomenon of genome instability in sick children of different age groups after the accident at the Chernobyl Nuclear Power Plant
Radiats Biol Radioecol. 2006 Jul-Aug;46(4):466-74.

https://www.researchgate.net/publication/6775179_The_problem_of_the_transgeneration_phenomenon_of_genome_instability_in_sick_children_of_different_age_groups_after_the_accident_at_the_Chernobyl_Nuclear_Power_Plant


 こちらは、全文が無料では閲覧できないかもしれない。どの細胞のゲノムを調べて異常だ、異常でないだとしているのか、よくわからないが、土壌汚染の程度よりも、事故後早期に出生した子供たちの異常率の高さを指摘している。(zone I-- 627-688 kBq/m2, 137Cs and zone II-- 135-402 kBq/m2, 137Cs)また、リクビダートルの子供での異常率の高さも、やはり確認されている。
 異常の内容としては、放射線暴露にたいする修復システムが問題であったとされている。

“In most of the children of both cohorts the repair synthesis of genome DNA by gamma- and UV-radiation is reduced as compared to one in the children from the control group.”





Reduced Lung Function in Children Associated with Cesium 137 Body Burden
Annals of the American Thoracic Society, Vol. 12, No. 7 (2015), pp. 1050-1057.
http://www.atsjournals.org/doi/abs/10.1513/AnnalsATS.201409-432OC?journalCode=annalsats#.VptsU2foswU



 土壌汚染度に加え、Whole Body Counterでの内部被曝(平均 65.96 Bq/kg)と相関して、呼吸機能低下がみられるという内容となっている。貧血傾向とともに、気道も拘束されてくれば、呼吸困難、疲れやすさ、運動耐性の低さなど、チェルノブイリでみられていた子供の問題は、比較的説明可能となる。アスベスト四日市ぜんそくではないが、気道は確かに内部被曝の影響を最も受けやすいといえるかもしれない。

 この事実も、去年7月にわかったことであり、これまでの「科学的な医学」が、この領域についてまだまだ発展途上であることを示してもいる。では、福島でのWhole Body Counterでの調査ではどのくらいかというと、我らが東大物理学早野教授の論文がある。


Minimal Internal Radiation Exposure in Residents Living South of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Disaster
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0140482


“Early in the screening period only two schoolchildren showed Cs-137 levels that were over the detection limit (250 Bq/body) although their Cs-134 levels were below the detection limit (220 Bq/body).”


 220Bq/body以下という数字と、65.96 Bq/kgという数字を比較してどう考えるか。ロンドンの小野昌弘先生の強調する、「科学的医学」という立場からは、これまでの核事故に関するチェルノブイリの研究から比較して、福島でのこの内部被曝汚染度をどうみるか、という判断が求められる。それにより、呼吸機能が、どのような年代で、いつごろには、どの程度影響をうけるかという予測が、曖昧模糊としながらでも立てられるだろう。

 以上からもわかるように、核事故後、ヒト集団にどのような臓器、組織に、どのようなメカニズムで、どのようなことが、いつ起こって来るのか、それは、健康に影響があるレベルか、否か、改善するのか、それとも、世代を超えて伝わってしまう場合があるのか、こういう問題群にたいする科学的答えは、まだ、十分に得られておらず、研究途上にある。ウィキペディアにまとまったレビューがあったので、より調べたい方にとっては、参考になる。
  
 
チェルノブイリ原発事故の影響
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%96%E3%82%A4%E3%83%AA%E5%8E%9F%E7%99%BA%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF

チェルノブイリ原発事故の影響(チェルノブイリげんぱつじこのえいきょう)では、1986年4月26日のチェルノブイリ原子力発電所事故による、放射線などによる疾病や影響、旧ソビエト連邦ソ連解体後のウクライナへの影響、世界中での原子力政策や大衆運動など様々な影響について述べる。

 長期の低線量被曝の影響を把握するには包括的な研究が必要とされ[1]、予算上の制約などの懸念が指摘されてはいるが[2]、欧州委員会健康被害の全体像を研究するためのプロジェクトとしてチェルノブイリ健康研究アジェンダ(ARCH: Agenda for Research on Chernobyl Health)を立ち上げ、長期的な研究計画の構築が進められている[3]。」


【参考】東京から岡山に移転開業した三田医院サイトより部分引用
『東京から岡山へ移住した一開業医の危機感』    
 三田医院院長 三田茂
http://mitaiin.com/?page_id=10

放射能事故の健康被害には医学の教科書はありません。放射線医学は外照射やクリーンでコントロールされた放射性物質を扱っていて、放射能汚染については無力です。診断学や治療学もありません。じつは医師にとっては未知の分野、いちばんかかわりたくない分野です。」

放射線に係わる医療者や原子力施設の作業員は定期的に「電離放射線健診」を受けるように法律で定められています。放射線管理区域並みの環境が点在する首都圏の人達はこの健診並みの検査を受けるべきです。私は2011年末より約3000人の首都圏の親子の血液検査もしてきました。「電離健診」の中心は血液検査だからです。当院ではまだ白血病などの血液疾患は見つかっていませんが、首都圏の小児にはすでに検査値の偏りがみられ、これは西日本への避難、保養で改善するのです。呼吸器、消化器、循環器、皮膚病などのありふれた病気にかかりやすく、治しにくく、再発、重症化しやすくなってきました。これらも避難、保養で急速に改善します。喘息、下痢、中耳炎、副鼻腔炎など、特に皮膚炎の改善は驚くほどです」

/呼吸器、皮膚の炎症が問題になりやすいということであれば、鼻粘膜への障害も十分、内部被曝による問題として考えられる。おそらく、原発事故後早期に、汚染地に近づけば鼻血が起きやすかったとしても、離れればそれは改善するといった問題であろう。栃木にいって鼻血をだしたということを告白した「ロンブー淳」さんも、おそらく、名古屋や大阪でしばらくすごせば、治ったはずである。



【蛇足】私の立場は、どんな悲惨で致命的なことでも、知は無知にとどまるよりも勝るし、人間であればそれを受け入れ、発展させていく潜在的な能力があるはずであろうという所にある。その知を、安易な差別や極端な悲観に陥ることなく、妥当に受け入れるには、おそらく、慈悲的な心の余裕が必要になるだろうとは思う。こういう所が「国家神道精神」「美しい日本」だけでは、無理かもしれない。昭和天皇も歎いたように、先の大戦敗戦にあたっても、科学的思考を軽視し、民族存亡の危機までおとしめてきたわけであるから。