日本国憲法の精神に立ち還るために、尖閣再棚上げを要する

日本国憲法前文より
A 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、
B 平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。
C われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。


 憲法9条の精神の基礎がどこにあるかというと、前文にある。また、前文の中でも、上のAにある。安倍は、表面的に、恒久の平和を祈念しているのだろうが、「人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚」していない。支配するのが、暴力による威嚇専制や、歴史や文書、証拠を捏造、改竄するようなごまかしではなく、なんらかの「崇高な理想」、まあ日本的にいえば、「誠」にあるということだ。現実主義的な面もあってもいいとおもうが、その底に、この自覚がなければ、日本の平和憲法にのっとった外交安全保障は成り立たなくなる。国内右翼勢力に煽られ、隣国中国主席のメンツをつぶして尖閣国有化したところに、この、「人間相互の関係を支配する崇高な理想」を見失った、躓きの石がある。


以下、一昨日、尖閣諸島領域において日中の戦闘機が肉薄した事案のニュースの感想から始まる、上記の視点からのツイートを、一部補足して記録しておきたい。


6月11日、6時のNHKニュースで、日本と、拡大した中国の防空識別圏重複領域で、日本の巡回していた自衛隊機に中国戦闘機が30m近くまで接近してきた、と、小野寺防衛相が間抜けな顔で、日豪会談時に述べていた。
バカか。尖閣棚上げ合意を破棄して日本が一方的に国有化したのだから、当たり前だろ。


ただ、大きく見れば、米中が組んだうえで、日本を軍事的脅威にさらし続け(言っておくが、これを正当化する原因が石原、野田の尖閣国有化だ)、いいように料理してゆこう、そんな思惑もすけてくる。戦勝国米中のはざまで、独自外交能力を喪失した日本がビクビクしている。


憲法前文「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
尖閣国有化を、再度、棚上げすることが、この憲法の精神にのっとった解である。


尖閣国有化の棚上げにより、中国の日本敵視政策は、和らぐだろう。また、それを餌にした、日米防衛産業の、日本好戦化計画もとん挫するであろう。「諸国民=中国国民の公正と信義」これを信頼できるかどうか、試されている。総理閣僚の靖国参拝も封印すればいい。


近隣国との、そういう関係構築をしない安倍の姿勢こそが、最も基本的なレベルでの日本国憲法違反であると思う。今回の、この最初のボタンの掛け違いである尖閣国有化について、棚上げを主張する新聞が、未だないのが、残念である。これをいうのが、むしろ、言論の勇気ではないか。尖閣国有化の経緯がおかしかった、と。


少なくとも、当時の胡錦濤主席を無視して、あるいはメンツをつぶして行われ、中国から相当の反撃を受けても、やむを得ないような、日本側の軽率な判断だったということだ。この数年の歴史認識すらしようとしない、新聞各社も、情けない。


6月11日の中日新聞でさえ、「そもそも日本の固有の領土である尖閣は」と述べているが、尖閣の領有権は、アメリカも認めていない。認めているのは、施政権だけだ。歴史的な経緯は、IWJで確認してもらえればわかるが、敗戦後アメリカの管轄になっており、1970年代初頭の繊維貿易交渉の際に、施政権だけアメリカから戻されたということである。敗戦前までは固有の領土であっただろうが、敗戦したことを忘れてはならない。アメリカは、安保上のレッドラインはないと、ある意味明言している。この一点を認めたままであれば、結局、危機を煽られつづけ、押し切られることになろうと思う。


 日本が、みずから、尖閣国有化にあたって、日本国憲法前文の精神を、破棄しているのだ。中国の激しい暴力的デモは、そのサインであった。すでに破棄した平和憲法を、破棄した、つまり隣国トップのメンツをつぶしながら領有権を確保した、「おいしい」現状変更はそのままに、平和、平和と新聞、学会が唱えても、限界がある。日本国民は、石原を始めにした、軍事国家化をよしとする勢力によって、尖閣諸島領有権という、「賄賂」をすでに受け取ってしまっている状況にあるのだ。それは、日本国憲法の精神を犠牲にしたうえでの賄賂に相当すると思う。
 収賄したままであれば、つまり、その現状変更を都合のいい既成事実として国民が平和を唱える一方で認めていれば、相手側、軍国主義化を是とする勢力の置いた石によって起こされる、中国の警告的挑発行為によって、いくらでも、国民の側が脅威にさらされ、おいつめられてゆくだろう。そして、結局、「アメリカ様に頼らないと、アメリカ様を守るために戦わないと」と追いつめられてゆき、集団的自衛権容認の方に、流されてゆくのではないかと危惧している。とにかく、今の状況は、石原と野田が置いてしまった絵の中で、進んでいる。尖閣国有化前とは、まったく異なっているのだ。


 すでに、日本の平和は言葉だけの平和で、いくらでも、自分が作ってしまった敵から攻撃される隙のある平和になっているのだ。今はまっている所は、北朝鮮瀬戸際外交的なテポドンとは、わけが違う。尖閣国有化は、そういう意味で、平和憲法破棄まで行きかねないような、時限爆弾になっている。新聞各紙が、本当に、この点について盲目を決め込んでいるのが、不思議でならない。敗戦した国であることを、そこからはじめないといけない国であることを、認めることができるかだ。ドイツのようにだ。



【参考過去記事】
2013-10-26 日本は、今、ハニートラップならぬ、尖閣トラップに嵌まっている
http://d.hatena.ne.jp/sarabande/20131026

2013-07-31 靖国を乗り越え、日本が前に進むための一つの構想
http://d.hatena.ne.jp/sarabande/20130731

2014-05-18 立憲国家の防衛論 試論
http://d.hatena.ne.jp/sarabande/20140518