大井川沿いサイクリング 

塩郷ダム湖

 昨日23日、1ヶ月ほど前に車で下見をしておいた、大井川沿いを上流に登っていくサイクリングを挙行した。これまで、浜名湖一週、森町、秋葉山下社と気田川沿いと、サイクリングを重ねてきたが、いずれのコースも、種本は同じで、白石和也著『静岡県サイクルツーリングガイド』静岡新聞社刊である。静岡県在住の自転車愛好家にとっては、非常に重宝する本で、西部から伊豆、さらに山梨県富士五湖周辺にかけて、厳選された25のモデルコースが載っており、それぞれ白石氏本人が実地走行をし尽くして書かれた、写真つきのコースレビューがついている。今回、行ってきたルートは、「中級」コースに分類された、56Kmのコースである。
 しかし、金谷駅から千頭駅まで、大井川沿いを登っていく56Kmのコースは、休日、早朝起床して、金谷駅まで自転車を輪行で運んでいくことも考えると、イメージするだけで疲労感、重荷感がある。実際、当日朝7時頃起きようと思ったのだが、結局9時ごろになってしまい、もう少し無理なく、軽い気持ちでサイクリングできるようにと、途中の「家山」駅から、千頭まで登るプランに切り替えた。そうなると、約36kmであり、登りが主体となったとしても、どうにか走破する自信は持てるようになる。
 家山駅のすぐ前には、月極めの広い駐車場があるが、その中でも2台だけは、有料駐車場として利用できた。駅の改札にいる当番のおばちゃん(とにかく愛想が悪い。猫駅員の方が接客がなっているだろう。失礼。)に言えば、1日200円で駐車券を発行してくれる。そこで輪行バックから自転車を出して組み立て、11時半頃スタート。行く先に見える、つらなる山々をみながら、じっくりペダルをこいで、登りと景色を楽しんでゆこうと思いはじめる。登りとはいっても、ずっと、比例グラフのように単調な登り坂が続くわけではなく、3歩山を登って1.5歩、川沿いに向けて下るといったイメージで、家山から千頭まで、正味約150m程登っていく。登山という程でもないが、このコースは、ヒルクライムというイメージよりも、マウントクライムといったネーミングが面白く感じる気がした。私の自転車はペダル側ギヤが3段変速でき、かなりきつい坂でも登れるようなギヤ比が確保できるが、こういう山のコースを余裕を持って走行するためには、必需機能だと思う。
 ほぼ夏至の時候だったが、うっすら曇った天気で、気温もそれほど高くはなく、サイクリングにはピッタリの陽気だった。ウグイスのきれいな完成した鳴き声をそこここで聴くことができ、それ以外にも、妙にきれいな声で泣く、なんだか名前はよくわからない野鳥もいたりする。新緑の山の匂いも含め、サイクリングはペダルを自力でこぐ大変さはあるが、五感で、その場所に息づく自然を感じることができるので、そういう意味での満足感が高い。こういう体験は、決して、自動車、バイクでも味わうことはできないものである。
 写真は道半ばの塩郷ダム湖。ちっぽけなダムで、手前側の眺めからは、裏にダム湖が出現するとは想像もつかなかったところに、この「呉須色」(調べると、この表現が一番近い)の静かな湖面がいきなり出現して、驚かされた。さらに上行くしてゆく途中では、家山駅12時20分頃初のSLに追い抜かれる。汽笛をならしながらSLが後ろから近づいてきて、追い抜かれるサイクリングというのも、この大井川沿いならではの面白みである。ダムの次にある下泉駅で、SLが止まっている所に追いついた。汽笛を鳴らしながら発車するときには、自然と、SLから降りた観光客が名残惜しそうに、列車に残る人たちに向かって手を振り、中の人もそれに応えて手を振っていた。このときの、連なる客車の窓から手をふる人たちの笑顔のすがすがしさといったらなかった。200人近い、自然な邪気のない日本人の満面の笑みを、こんなに並んでみることができたのは、自分は、あまり記憶にない。そんな力が、SLにはある。
 さらに、1時間弱ぐらいで、午後2時に千頭に到着。合計時間は2時間半。もう自転車こぐのも疲れていやになってきたが、まだまだ、行こうと思えばいけそうなぐらいの所で到着となった。駅前にあった、開放的で見た目の雰囲気のよかった「カヌー喫茶」というところで、オムライスを食べ、14時50分発に金谷行きSLが丁度あったので、それに合わせて輪行バックに自転車をしまいこむ。昭和15年前後に走っていたSLということで、客車も、壁から窓枠を含めほぼ木製、本格的にレトロな雰囲気だ。思わず、漱石の『三四郎』冒頭の、長時間かけて列車にのり、いろんな出会い、出来事がありながら、三四郎が上京してゆく場面に思いを馳せた。汽笛と煤煙に時につつまれながら、登ってきた道をレールに替えて、40分かけて、家山まで下っていった。

 


塩郷ダムの小さなダム湖。大きいサイズでみれる。
https://twitter.com/HSarabande/status/348712471726538752/photo/1


下泉駅で出合ったSL。がんばって走っている感があり、なぜかみんな嬉しくなる。
https://twitter.com/HSarabande/status/348710962418835456/photo/1


帰りの輪行でのSL客車内。近くに家族連れ、カップルがおられたが、念のため姿が見えないところで撮った。休日には、それなりに乗車客がいて賑やかさがある。車掌がハーモニカを吹いて、接待に回ってくる。
https://twitter.com/HSarabande/status/348713939539996672/photo/1